辰野隆「僕の書斎」

 辰野隆随想全集を繙読していた時に、「なんか短いしちょっと書き写してやれ」と思ってテキストにしたのが以下です。
 辰野隆は1964年に亡くなっているので、著作権的に掲載しても大丈夫なはずで、青空文庫にもすでにいくつかの文章が収められてます。

青空文庫:辰野隆のページ

 辰野隆(たつのゆたか)はフランス文学者で、東大の最初の日本人仏文教授です。
 谷崎潤一郎とは中学時代からの同級生で、随筆を読んでいると時々谷崎のことが出てきます。
 東大仏文の先生なので、教え子に有名な作家や学者がたくさんいますが、例えば太宰治もその一人です。太宰の小説に、辰野隆がモデルの先生が出てくるものがあります。
 僕は、小林秀雄について書かれた随筆がとくに好きです。また暇な時にでも書き写そうかと思います。

 では以下。


僕の書斎

 僕の書斎の生活は極めて簡単です。春と夏と秋は腰をかけながら、冬は同じ書斎の一隅の一段高い三畳に胡座をかいて、いくら読んでもあまり利巧にならない書物を、畢竟、忘れる為に読みます。不精で寒がりな僕は、冬は机の下に炉を切って、炬燵を据える工夫をしました。口の悪い友達に云わせると、こんな眠気を催す書斎を造ったのは大失敗だそうです。
 然しながら、睡眠を誘発しない書斎が、古来、如何に多くの主人公を発狂せしめ、殺戮した事か。僕は深く省みて、最も危険の鮮い道場を建立したつもりなのです。で兎に角、春夏秋に、椅子に凭れて居ねむりしながら、冬は、炬燵の上の机に靠れて、うつらうつらしながら、下手の横好きの僕のフランス文学玩弄を、のらりくらり、とやっているわけです。
 僕の書斎は、大成功だと思います。
(『あ・ら・かると』昭和11年6月1日)

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